ボルドーワインと五大シャトーの魅力
深いワインレッドカラーを指して「ボルドー」と称するほど、赤ワインの代表格であるフランスのボルドーワイン。今回はその格式と魅力に迫ります。
“ワインは農産物”と言われる理由
ボルドー地方のワインの特徴
「五大シャトー」とは?
シャトーってなに?
メドック格付け1級の、5つのシャトー
五大シャトー紹介
シャトー・ラフィット・ロートシルト
シャトー・マルゴー
シャトー・ラトゥール
シャトー・オー・ブリオン
シャトー・ムートン・ロートシルト
その他の高級ボルドーワイン
シャトー・ペトリュス
シャトー・ル・パン
シャトー・オーゾンヌ
シャトー・シュヴァル・ブラン
シャトー・ディケム
“ワインは農産物”と言われる理由
ボルドー地方のことに触れる前に、まずは「産地」がワインにおいてなぜ重要視されるのかに触れておきましょう。ワインは、「収穫したてのブドウをつぶし、酵母を加えて発酵させる」という、酒類の中でも非常にシンプルな製法を基本としています。そのため、ブドウの出来がワインのクオリティにダイレクトに影響するので、ワインの産地は、ほぼそのままブドウの産地と言えるのです。
産地を構成する要素は、気温・湿度、日照時間、降水量のほか、土壌、標高や傾斜など。さまざまな条件が、ブドウの生育に影響を与えます。また、ブドウの品種によって適した条件は異なります。
ボルドー地方のワインの特徴
では、ボルドー地方とはどのような産地で、どのようなワインが生まれるのでしょうか。
ボルドー地方は、フランスの南西部に位置し、ガロンヌ川、ドルドーニュ川、ジロンド川の3つの流域にまたがる、温暖な海洋性気候に抱かれた産地です。赤ワインを代表する産地として、世界的に知られています。
ボルドー地方の赤ワインは製造方法にも大きな特徴があり、それは数種類のブドウ品種をブレンド(現地の言葉でアッサンブラージュ)して造られるということ。おもにカベルネ・ソーヴィニヨン、メルロ、カベルネ・フランという3品種を、造り手独自のバランスで混ぜ合わせて醸造されます。味わいは、力強くもエレガント。長期熟成が可能なワインも多く、何十年も前のオールドヴィンテージのワインは、非常に高価で珍重されています。
「五大シャトー」とは?
シャトーってなに?
ボルドーワインの名前には「シャトー」が付いていることが多いですが、これはChateauと書き“城”という意味のフランス語。自社畑を持ち、ブドウの栽培からワイン醸造までを一手に担う栽培家兼醸造家のことを、シャトーと呼んでいます。城という意味にふさわしく、ボルドー地方には広大な畑と醸造所を所有するシャトーが多いのが特徴です。広い敷地で複数のブドウ品種を栽培できることが、造り手それぞれのアッサンブラージュ技術の発展に結びついてきました。
メドック格付け1級の、5つのシャトー
ボルドーの赤ワインを代表する5つの造り手は、五大シャトーと呼ばれています。この等級を決めているのは、「メドック格付け」というボルドー地方メドック地区のシャトーを対象にした格付け。1級から5級まであり、最上位の1級に分類されるのが、わずか5つのシャトーというわけです。1855年のパリ万国博覧会の際に、ナポレオン三世の要請によりメドック地区のシャトーが格付けされ、現在では計61シャトーが対象となっています。この格付けは長い間改訂がされておらず、その伝統もあって、五大シャトーのワインには高値が付けられているのです。 メドック地区はボルドー地方の北側、ジロンド川の左岸に南北に伸びる地区。ボルドー地方にはこのほか、グラーヴ地区やソーテルヌ地区、サン・テミリオン地区など、メドック地区以外の銘醸地が複数あります。
五大シャトー紹介
ここからは、五大シャトーそれぞれについて解説していきましょう。
シャトー・ラフィット・ロートシルト
1855年にメドック格付けがなされた当時、最も取引価格が高かったシャトー。その昔、ヴェルサイユ宮殿で毎夜開催された晩餐会で振る舞われ、ルイ15世も嗜んだことから“王のワイン”とも呼ばれていたそうです。現在でも、五大シャトーの筆頭との呼び声が高く、特に長期熟成を経たものはボルドーの真髄とも言えるエレガンスを放ちます。
シャトー・マルゴー
1855年の格付けでテイスティングが行われた際、唯一の満点評価を取得。イギリス初代首相ロバート・ウォルをはじめ、文豪ヘミングウェイはその名を娘に付けるほど寵愛するなど、各界の著名人を唸らせてきたシャトーです。かつての総支配人が、“ベルベットの手袋の中の鋼鉄の拳”と評した、気品がありながらも強さとしなやかさを備えた味わいが魅力です。
シャトー・ラトゥール
エチケットに描かれた“塔”がシンボルマーク。この塔は畑に実際に建てられており、15世紀頃、海賊の攻撃から身を守るため造られた要塞の跡地に、17世紀に建立されました。世界で最も凝縮感があるとも言われる力強い味わいが特徴で、豊かなタンニンを感じることができます。
シャトー・オー・ブリオン
メドック格付けで唯一例外的に、グラーヴ地区にありながら格付けに加えられたシャトー。ワインの製法に「澱引き」や「補酒」を導入した先駆者としても知られており、その香味は五大シャトーの中で最も香り高いとも賞されています。カベルネ・ソーヴィニヨンよりもメルロの比率が高くなるヴィンテージがあるなど、メドック地区のシャトーとは違った側面も見られます。
シャトー・ムートン・ロートシルト
1855年には2級格付けだったものの、その後、1973年に1級に昇格。100年以上も変更されることのなかったメドック格付けの慣例を、4世代に渡る努力の末に打ち破った唯一の存在です。その味わいは、濃厚かつ豪勢。ダリやシャガール、ミロといった芸術家の作品を起用した、年ごとに替わるエチケットもコレクターを愉しませています。
その他の高級ボルドーワイン
五大シャトー以外にも、ボルドー地方には世界的に価値を認められたシャトーが多数存在します。五大シャトーの項で少し触れましたが、ボルドー地方では、中心部に流れるジロンド川を境に、産地が「右岸」と「左岸」に分けられているのが特徴。シャトー・ペトリュス、シャトー・シュヴァル・ブラン、シャトー・オーゾンヌを加えて、「8大シャトー」と呼ばれることもあります。
シャトー・ペトリュス
ボルドーワインの最高級品を生産。ドルト―ニュ川流域にある、ボルドーの右岸を代表するシャトーです。小規模な生産者であることと、ポムロール地区には格付けがなく、市場評価が値段に直結するため、五大シャトーよりも高値で取引されています。早飲みに仕上がる傾向のメルロー品種を主として用いながらも、数十年の超長期熟成ワインを仕立てる手腕に定評があります。
シャトー・ル・パン
ポムロール地区で、シャトー・ペトリュスと肩を並べる存在。生産数が非常に少なく、状態の良いオールドヴィンテージは特に入手困難とされています。1982年が初ヴィンテージながら、1990年代にはすでにボルドーのスターワインとして名を轟かせており、その異例の出世スピードは“ポムロールの奇跡”と語り継がれています。メルローを主体とした、溢れ出るようにゴージャスな果実の旨みが特徴。
シャトー・オーゾンヌ
ボルドー右岸の主要地区である、サン・テミリオン地区の代表格。生産量が少なく稀少でありながら、ペトリュスに比べればかなり安価なため、世界中にファンを持つシャトーです。カベルネ・フランを主体とした、多層的な味わいが特徴。タンクではなくオークの小さな新樽によるマロラクティック発酵や、無濾過製法など、独自のこだわりが光ります。
シャトー・シュヴァル・ブラン
シャトー・オーゾンヌと双璧をなし、サン・テミリオン地区のトップに君臨。カベルネ・フランを多く使用した、深いコクと力強さ、またポムロール地区に近いことから、ねっとりとリッチな酒質も併せ持っています。瓶詰め時点から、年を経るごとに変化を楽しめる幅広い飲み頃も特徴です。
シャトー・ディケム
「フランス貴腐ワインの最高峰」と賞賛されるシャトー。ボルドー左岸、ガロンヌ川の支流に位置するソーテルヌ地区で、ただひとつ最高位の格付けを得ています。貴腐菌が付着した白ブドウの完熟度合いを見ながら、毎年平均5~6回に分けてひと粒ずつ手作業で収穫を行うなど、多大な手間と時間をかけて生産されるため、高値で取引されています。とろけるように甘美な味わいで、熟成ポテンシャルも非常に高い傾向にあります。